どうか明日が春の日のように、

 

蜷川さん。そちらにはもう、届いているでしょうか。

 

こちらでは、あなたが最高の役者だと讃えていた素敵な人たちが、今、毎日を幸せに過ごしているということ。そして、これからは家族として日々を紡いでいくということを、教えてくれました。

今、胸の内になんだかもうありとあらゆる想いが四方八方駆け巡っていて、ちょっとこれは自分の感情の棚卸しが必要だと思い、久しぶりにブログの画面を立ち上げています。

どこまでも自己満足な行為であることは百も承知ですが、私の喜びの要を作ってくれた、人生の大恩人、大好きな大好きな蜷川さんに向けて、というそんな形で、どうか今この時の思いの丈を吐き出させてください。

 

 

私が蜷川さんに出会ったのは15年前、2003年でした。

あの日のシアターコクーンの情景、生涯で初めて一気に全身鳥肌の立ったあの感覚は、今でもはっきりと思い出せます。とてつもない熱量が劇場全てに溢れてる蜷川作品に触れるたび、私はどんどんと舞台の虜になっていきました。

自分の意志を貫き具現化し、大衆の心を揺さぶり拍手の渦を巻き起こす。そんな蜷川さんは、演出家としてたくさんの俳優を愛し、たくさんの俳優に愛されている方でもありました。

蜷川幸雄が手掛ける作品を、15年間愛し続けることで、私は本当に素晴らしい表現者を、数えきれないほど知ることができました。そして彼らを愛するたくさんの人と出会い、色々な話を交わし、幸せな日々を送ってこれました。素敵だと思う存在や、エンターテインメントについて、面と向かって、はたまたネットの海を介して交流できる楽しさは、私の人生を、本当に豊かにしてくれています。その種を蒔き、育ててくれた蜷川さんには、どれだけ感謝をしても足りません。

 

そして私は約2年前、ひょんなことから一人のアイドルに強烈に惹かれました。

V6というグループに属し、20年アイドルを続けてきたというその人の名前は、森田剛

学校へ行こう!世代の私にとって、彼は顔も名前も勿論知っている存在でした。ただ、あの頃から10年以上が経ち、改めてしっかりと認識した彼は、随分と様子が変わっていました。

トレードマークだった金髪は黒髪に。口元には見たこともないような髭を蓄えて。そして何より一番驚いたのは、記憶にあるよりずっとずっと優しい表情をみせてくれる、とんでもなく魅力的な大人の男の人になっていたことでした。その上、今でも鮮明に思い出せるほど強烈な、ブラウン管越しですら目が離せなかったあの圧倒的なカリスマ性は健在で。もう急降下一直線、堕ちる以外の道はありませんでした。

彼のことを知れば知るほど、V6というグループも、残りの5人のメンバーのことも好きになりました。そしてそんな風にメンバーを、V6を好きになればなるほど、この5人と20年間笑い合い、時には衝突し合いながらも今なおそこに立って圧倒的なパフォーマンスを届けてくれている、アイドル森田剛という存在に、夢中になっていきました。

 

森田さんは、決して口数が多い人ではないと思います。けれど、「ダンスが好き」「舞台が好き」と、大切なことはきちんと言葉で伝えてくれる、そして何よりも態度や圧倒的な成果で示してくれる、そんな人であることを知りました。

 

「V6の森田剛」が入口だった私にとって、「板の上の森田剛」は未知の存在でした。いつかでいい、見てみたい。森田さんが自ら「好き」だと口にする舞台。私にとっても、何より大好きな「舞台」と、大好きな「森田剛」が掛け合わさるそんな夢みたいな空間。この目で、肌で直接感じられるその日が来るのを、今か今かと待ち望んでいました。

 

まさか、蜷川幸雄の舞台でその夢が叶うなんて。そして、そんな貴方が彼を、彼らを、芝居を残してこの世を去ってしまうなんて。本当に、思ってもいませんでした。

 

蜷川幸雄追悼公演と銘打たれ2016年夏にその幕を開けた、戯曲・ビニールの城。そこにあったのは、紛れもない、蜷川幸雄「監修公演」でした。

 

 

最高なまでのキャスティングが、本当に、演出の半分以上を占めている。為すべきは、揃いに揃った最高の素材の魅力を活かすだけ。今回、蜷川さんに代わって演出を手掛けた金さんが仰る通りの舞台が、確かにそこにありました。

蜷川幸雄の一ファンによる、戯曲「ビニールの城」感想  - 夜が明けて 広がる空へ

 

 

戯曲というホンは同じでも、そこから大衆に伝えたいメッセージを決めるのは、演出家です。今回はどうだったのかな。何を伝えたかったのかな。どうして彼らが、選ばれたのかな。 蜷川さんが伝えたいものを形作るために最良と選ばれた俳優達は、その期待に応えましょう、という高い志を持って、毎日毎日違う演技をみせてぶつけ合う。命を削るようにして、役を、芝居を作っていく。それが蜷川さんの稽古場なんだ、と聞いたことがあります。 蜷川さんは、どんな朝顔が見たかったんだろう。どんなモモが、どんな夕一が、どんなビニールの城が。そうしてそれで、何を伝えたかったのだろう。知りたいです。きっとずっと、知りたいままです。 蜷川舞台に魅了され続けたただの一ファンですらそう思うのだから、彼に愛され、彼のエネルギーを体で受け取り続けた一流の役者さんたちはどうだったんだろうかと。灰皿と罵声が飛ぶとか、先行しがちな激情型のイメージとは正反対で、蜷川さんは、高い教養を物凄く論理的に組み立てて話せる分析型の演出家で。その上に熱を、愛情を乗せて強い言葉にして役者に伝えるから、それを貰った役者は生涯その言葉を覚えてるんだ、と言われていました。だからきっと役者さん一人ひとりの胸の内に、絶対に忘れ得ない、蜷川さんの言葉があって。それを思い返しながら、蜷川さんに選ばれた自分は、この役と、この戯曲とどう向き合えばいいのかと。蜷川さんのいない稽古場で、今度は自分の力だけで。一体どれだけ懸命に、真っ正面から芝居に取り組んだのだろうかと思うと、勝手に泣けてきてしまいます。

蜷川幸雄の一ファンによる、戯曲「ビニールの城」感想  - 夜が明けて 広がる空へ

 

 

役者さんにはみんな、稽古場の蜷川さんが見えていたんじゃないのかな、と思います。実際に居るというわけではないけれど、演出していて満足いったときにだけ見せてくれる、白い歯のこぼれる蜷川さんのあの笑顔が、それぞれの中にいまなおきっと、鮮やかに残っていて。

蜷川幸雄の一ファンによる、戯曲「ビニールの城」感想  - 夜が明けて 広がる空へ

 

 

役を、作品を、芝居作りを全力で楽しんでいることを大切にする、蜷川さんの笑顔が見たい。自分という役者を愛してくれた蜷川さんを、自分も愛しているから、どうか、喜んで欲しい。全員がそう思って、毎日闘い続けて、仲間と支え合って、金さんを信じて。そうして作り上げた作品を、私は今回こうやって、一観衆として、見せてもらえたのだと思っています。

蜷川幸雄の一ファンによる、戯曲「ビニールの城」感想  - 夜が明けて 広がる空

 

 

 「V6の森田剛」しか知らなかった私は、一昨年のあの夏を経て、「役者・森田剛」にも惚れ込むことになりました。

そして去年の夏。今度は板の上ではなく、光り輝くステージ上で心底楽しそうに、この上なく真摯に歌い踊る彼をこの目で、肌で感じてきました。その圧倒的な輝きと眩しさに、「アイドル・森田剛」の誠意ある極上のパフォーマンスに、心から感謝の念を抱きました。

 

そのコンサートの舞台裏でのインタビューで、森田さんはこう言っていました。

「まあでも 何か 俺らの中で起こることは――― そんなに重要じゃないっていうかさ」

「20年以上 ついてきてくれた人たちがいて」

「また 今回“見てみようかな”って思う人がいて」

「それでいいと思うんだよね」

「シンプルに」

「ステージでファンの人と いいパフォーマンス いい関係 っていうのが全てだから」

 

たった2年ぽっちしか追いかけていないファンだけど、もう、この言葉が全てで。そして去年の夏、一昨年の夏、この目で肌で感じたあの熱と誠意が、私にとってはその裏付けで。ただひたすらに、ステージに立つ森田剛という人が好きで、信頼しかないです。

 

蜷川さん。稀代の演出家であると同時に、真っ正面から役者に向き合う愛情深いあなたの目には、一体彼のどんな魅力が、どれほどたくさん映っていたのでしょうか。

「やっと会えたね」と嬉しそうに笑って。「嫌いじゃないよ」と言ってくれたと、剛くんは教えてくれました。

蜷川さんが、どうして彼にあのホンを託したのかは、もう決して分からないけど。

ずっと追いかけ続けていたら、いつかその理由が少しだけでも分かったりしないかなって、今は、そんな風に思っています。

 

 

剛くん。

どうか、今日も明日も明後日も。ずっとずっとずっと、笑っていてくださいね。

口元に手をあてて、時折そこから八重歯がこぼれて、聞いたらすぐにあなただってわかる、あの高らかで上機嫌な笑い声で。そんな風にあなたが笑う、本当にたったそれだけで。あなたを大好きなメンバーが、あなたに夢中なたくさんのファンが、一瞬で笑顔になることを。私はもう、知ってしまったから。

それって本当に、すごいことです。剛くんにしか、できないことです。

 

ご結婚、おめでとうございます。

あなたの笑顔が、あなたの日々の幸せが、空の上まで届きますように。

板の上で、ステージで。光り輝く貴方に会える次の機会を。

心の底から、楽しみにしています。